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『それでね、今日は一晩、飲み明かしちゃおうかなーって』 「はいはい。わかったわ、ママ。あんまり飲みすぎないようにね――――うん、ちゃんと戸締りもしっかりしとくから、心配 しないで――――それじゃ、おやすみなさい」 そう言って、美希は電話を切る。そして、ベッドの上に座っていたせつなを見て、 「久しぶりに会った友達と飲んでるから、ママ、今日は帰らないんだって」 「・・・・・・そう」 頷いて、軽く目を伏せるせつなに、彼女は言う。 「帰ってもいいのよ? 別に、あたしは――――」 「ううん、平気」 ゆっくりと頭を振って、せつなは立ち上がった。 「シャワー、借りるわね」 「ええ、どうぞ――――着替え、持っていくから」 ありがとう。美希の方を見ようとしないまま、彼女は部屋を出て行く。パタン、と音を立てて閉まるドア。せつながいなく なった途端、急に部屋が寒くなったような気がして、美希はわずかに体を震わせる。それは多分に、ほんの数分前まで、 彼女を抱きしめていたせいだろうけれど。 平気、か。 せつなの台詞を思い出して、美希は小さく唇を噛む。 平気って、何が? 彼女の台詞に、そう聞き返せなかった自分。その弱さに、彼女は苦悩する。 シトシトシト 聞こえてくる音に、カーテンをそっと開ければ、いつからだろう、雨が降り出していて。 シトシトシト 小さな雨音が、やけに大きく聞こえるのは、この部屋の静寂のせいだろうか。自分しか、いない、この部屋。 「せつな」 窓の側で、呟いてみる。ガラスが曇って、外の景色が白く濁る。一つ、溜息。また白くなる、風景。 やっぱり、寒い、な。ああ、せつなの着替え、浴室に持っていってあげないと。 思いながらも、美希は、動けぬまま。 そっと外を眺め続ける。 雨に煙る、街並みを、眺め続ける。 Eas of Evanescence X せつなと交代で、シャワーを浴びる。いつもは快適なこの時間が、今は例えようも無く苦しい。 肌を流れる雫。ぬくもりが、けれど、感じられない。心が冷たくなってしまっているからだろうか。 それでも、永遠にそうしているわけにもいかず。美希はノズルを回し、シャワーを止めた。 脱衣所で、体を拭こうとして、ふと、鏡に気付く。完璧なスタイルを保つために置いた、姿見に映るのは、いつものように 完璧な自分の体。 真っ白の肌は、ほのかに赤みを帯びている。プルンと張って、ツンと上がった胸。くびれのはっきりとわかる腰。スラリ と細く長い足。努力に努力を重ねて、築き上げた自慢の体だ。 けれど、それはもう一つの意味を持っている。 イースに――――せつなに、抱かれた体と云う意味。 この体に、たった一箇所以外、彼女に触れられていないところはない。それほどまでに、激しく求められた。思い出す だけで、頬が赤くなる。胸が、せつなくなる。 声を出さずにいることは、本当に辛かった。愛に気付いてからは、なおさらに。それでも、耐え切ったのは、愛する故か。 その彼女の言葉。 「美希のことも、好きなの」 思い出しながら、美希はそっと胸に手を当てる。硬くなった蕾の向こう、体の奥で、激しく脈打つ鼓動。歓喜に、震えて いるのだ、心臓が。 パジャマを着て部屋に戻ると、すでに電気は消えていた。廊下から差し込む光で、美希はせつなを探す。が、すぐに 気付く。ベッドの布団が、膨らんでいる。誰かがその中に、いる。 廊下の電気を消して、薄暗闇の中を、そっとベッドに近付く。 かけ布団をそっと上げて、ゆっくりと潜り込むと、暖かなぬくもりがあって。 シトシトシトシト 雨の音が響く。ただ、その音だけが、響いている。 「――――せつな」 小さく、美希は呼びかける。 横になっていた彼女が、こちらを見て。 「――――美希」 そう呼び返してくる。 それが、きっかけだった。 抱きしめる。抱きしめる。 狂おしい程の想いを込めて、彼女の体を抱きしめる。 絞るように、強く、強く。 一つにならんとせんばかりに、激しく強く。 きっと、せつなは痛いと感じている。その自覚が、美希にはある。けれど、彼女は何も言わない。ただされるがままに なっている。美希の背中に手を回し、自らも体を近付けようとする。 それが嬉しくて。 それが、悲しくて。 「せつな」 「美希」 ようやく彼女の体を解放した美希は、自分の下になったせつなの顔を見ながら、そっと呼びかける。やはり苦しかった のだろう、少しだけ息を荒げていた彼女は、それでもしっかりと応える。 ぶつかる視線。美希は、せつなの手に、自分の手を重ねて。強く握り締める。 まるで、逃げられないようにしているかのように。 そんな彼女の行為を、せつなはとがめようとはしなかった。黙って、同じように、握り締める。 まるで、逃げないよ、と言うかのように。 そのまま、見つめ合う、二人。美希の長い髪が、せつなの頬をくすぐる。サラサラと。 やがて近付く、少女達の距離。 美希は、せつなに――――イースに触れさせていなかった、たった一箇所で、彼女に触れる。 唇を、唇に。 最初は、ついばむように、ただ重ね合わせて。 やがて、美希の舌がせつなの唇に触れる。彼女の前歯を、ノックする。 そして絡み合う、二人の舌。まるで生き物のように、激しく互いを求め合う。 淫らな音が、部屋に響く。夢中になって、美希はせつなを味わう。 どれだけしても、足りないと感じてしまう。もっと、もっとと思う。 けれども―――― ゆっくりと、彼女は顔を離す。闇に慣れた目で見れば、せつなの顔は赤く染まっているのがわかる。多分それは、自分 もだろう。 「ファーストキスよ」 「え?」 「あたしの、初めてのキス――――せつなに、あげたから」 美希のことを何度も犯しながら、イースは、彼女にキスをしたことはなかった。だから、体の全てを触れられ、嬲られた けれど、唇だけは純潔を守っていたのだ。 その純潔も、今、失われたけれど。 「美希――――」 困ったように、目をそらすせつなに、美希は小さく笑う。 「わかってる。せつなは、違うんでしょ?」 無言は、肯定。多分、彼女のファーストキスは、ラブに捧げたのだろう。 「いいのよ。気にしないで」 もう一度、唇に軽くキスをして、すぐに離れる。 「けど、覚えておいて。あたしのファーストキスの相手は、あなただっていうことを」 「美希――――」 何故か泣きそうな顔をするせつなに、美希は小さく笑って。 彼女のパジャマのボタンに、手をかける。 一つ、二つとゆっくりと外していく。 せつなは、何も言わない。 雨の音に混じるのは、彼女の呼吸。 全てのボタンを外して、そっと前を広げる。 横になっていても形の崩れない胸に、美希は手を当てる。 ひんやりとした空気の中で、せつなの体は火傷しそうな程に熱くて。 「美希」 彼女の唇から零れる、自分の名前。 美希は、目を閉じて微笑む。声を出さずに、小さく微笑む。彼女の胸に置いた手は、動かない。触れたまま、ただ、 そのぬくもりを感じるだけ。 「美希」 もう一度、呼ばれる。 その声音の中に、覚悟を感じて。 美希はまた、微笑む。 そして、そっと彼女の胸に顔を埋めた。 「――――美希?」 何もしようとしない彼女に、またせつなは名前を呼ぶ。今度は、問いかけるように。 それに、美希は、顔を埋めたまま応える。 「ありがと、せつな――――ラブに話すの、辛かったでしょ?」 体から伝わってくる、動揺。彼女が息を呑むのが、わかった。 泊まってくると言ってある。そう、彼女は言った。 けれど、それだけじゃないと、美希にはわかった。 せつなはきっと、ラブに話した。 自分や祈里とのことを、全て話した。 だからこそ、せつなは、ここにいる。 あたしの部屋で、あたしに抱かれている。肌を、重ねている。 多分それは、せつなの優しさ。あるいは贖罪。 あたしにしたひどいこと、その埋め合わせをする為に、彼女はここにいる。 そして。 それを、ラブは知っているだろう。 知っていて、送り出したのだろう。 それが、ラブの優しさ。 きっと今頃、ラブは耐えている。 自分の隣に、せつながいないことの苦しさに、耐えている。 そのせつなが、あたしという幼馴染に抱かれていることの苦しさに、耐えている。 耐えながら、苦しんでいる。 泣いている、かもしれない。 せつなはそれを、知っている。 知っていて、ここにいる。 多分それは、全てを精算する為に。 もう一度、最初から、始める為に。 ラブとの、関係を。 愛を。 もう一度、最初から。 我侭よね、せつなって。 心の中で、美希は呟く。 これが贖罪になると思っているのだとすれば、これが優しさだと思っているのだとすれば、見当違いも甚だしい。 あたしは、同情なんかされたくない。 あたしは、こんなことを望まない。 あたしは、あたしは―――― けれど。 蒼乃美希という少女は、完璧で。 完璧すぎて。 目の前の少女の心も、幼馴染の少女の心もわかってしまって。 彼女達が、これを優しさだと言うつもりが無いことも。 彼女達が、苦しんで出した結論がこれだということも。 理解、出来てしまって。 だから。 怒れない。 ただ悲しいだけ。 我侭にも、自分勝手にも、なれなかった。 だからといって、全てを悟ったかのように、自分の欲望を抑えることも出来なかった。 結果として、半端なまま。 最後まで達して、親友を傷付けることも。 逆に、全く触れずに、我慢することも。 彼女は、出来なかった。 満たされずに傷付くのは、美希自身なのに。 キスは、素敵だった。とろけそうになった。 せつなの体は、とても暖かくて、柔らかくて、もっともっと触れていたいと思った。自分の素肌を、重ね合わせたいと 思った。 けれども、もう、おしまい。 これ以上は、出来ない。 ううん。耐えられない。 あたしが。 「――――っ」 ギュッ、とせつなのパジャマを握る。顔を、せつなの胸に押し当てる。 それでもボロボロと瞳から涙が零れる。 噛んだ唇から、嗚咽が漏れる。 「美希・・・・・・」 「――――ッ――――ック――――クッ、ヒック――――」 止まらない。止められない。 ただ、激しく。胸の奥から、形にならない想いがこみあげてきて。 「――――ッック、アアァァァァン――――」 とうとう、抑えきれずに、大声を上げてしまう。 まるで赤ん坊のように、せつなの胸にすがりついて、大粒の涙を流しながら、叫ぶように、泣く。 「ウァァァァァ――――アァァァァッ――――アァァァァッン」 ただ、泣き続ける。 「ウァァァァァン――――ック――――アァァァァァ」 ただ、ただ、泣き続ける。 「アァァァァァ、ウァ、ウァ、ウァァァァンッ」 泣き続ける。せつなの胸は、美希の零した涙でビショ濡れになっている。 「美希――――」 せつなの声は、微かに震えている。けれど、せつなは唇を噛む。 泣くな、私。ここで泣くのは――――許されない。 「アァァァァァッ」 「美希――――」 泣きじゃくる彼女の頭に手を置いて、せつなは。 自分の胸に引き寄せながら、そっと撫でる。 それが――――それだけが、彼女の為に出来ることだったから。 やがて、泣き疲れたのだろう。 美希は、寝息を立て始める。 それを聞いても、なお、せつなは美希の頭を撫で続ける。 逆の手で、彼女の手を強く、握り締めながら。 チュン チュン 鳥のさえずりが聞こえて、美希は目を覚ました。 だが、すぐには起き上がらない。聞こえてくるのは、衣擦れの音。 隣にあった筈の、ぬくもりがもう、ない。繋いでいた手も、今は外されて。 行ってしまうんだ。 思うと、胸が苦しい。けれど、それをねじ伏せる。 これでいいんだ。これで。 「美希」 着替えが終わったのだろう。彼女が、こちらを向く気配。 そして、遠慮がちに、小さな声で囁く。 「私、もう、行くわ」 ええ。ありがとう。昨日は、一緒にいてくれて。 「本当に、ごめんなさい――――それから、ありがとう。私の我侭を、受け入れてくれて」 いいのよ。その我侭も含めて、好きになっちゃったんだから。 惚れた弱み、っていうのかしら。 「我侭ついでに言うけれど――――もしも、許してもらえるなら」 許すも何もないわ。あなたはいつだって、あたしの大好きな人だから。 たとえあなたが、あたしを一番に想っていなくても。 「これからも、仲良くして欲しいの――――都合のいい、お願いだけれど」 本当にね。 けれど、いいわ。都合のいい女になってあげる。 だってあたし、あなたと一緒にいたいもの。せつなと一緒に、生きていたいもの。 一生忘れないから。 好きって言ってくれたこと。 絶対に――――絶対に、忘れない。 この気持ちは、もう、表に出さないけれど、一生、忘れない。 「それじゃ、行くわね――――さよなら」 ええ。また、会いましょう。 その時は、大切な親友として。 大事な、仲間として。 また会いましょう。 せつなの言葉に、美希は起き上がることも、声を返すこともしなかった。 ただ、心の中で返しただけ。 横になり、目を閉じたままの美希に、せつなは背を向けて。 やがて、パタン。 扉が閉まる。 それで、おしまい。 せつなは出て行った。 残された美希の、きつく閉じられた目から、一筋。 涙が流れて、それで美希の恋は、愛は。 おしまい、だった。 それでいいと、美希は思う。 これが、ハッピーエンドなんだ、と。 だから少しだけ、もう少しだけ、彼女は泣く。 これは嬉し泣きなのと、自分に言い聞かせながら。 涙を流したのだった。 ――――epilogue―――― 「おかえり、せつな」 「――――ラブ」 家に辿り着いたせつなを、門の前で迎えたのは、ラブだった。 まだ早朝と言える時間。今日は休みだとは言え、こんな時間に起きているとは思わなかった。 いや――――彼女の眼の下には、わずかに隈が出来ている。 眠れなかった、のだろう。そして、ここで待っていたのだろう。せつなが、帰ってくるのを。 「ラブ・・・・・・」 「なんか冷えるね。昨日の夜の雨のせいかな。ほら、せつな、早く入らないと、風邪ひいちゃうよ」 微笑みながら、せつなを迎え入れようとするラブの姿に、彼女は何も言えずに俯く。 私は――――こんなにも、たくさんの人を傷付けて――――そのくせ、エゴを押し通そうとして、一人、幸せになろうと して―――― そんな彼女の表情の変化に、気付いたのだろう。 不意に、ラブはせつなの手を掴む。 「せつな」 「――――ラブ」 驚く彼女に、ラブは、微笑む。 「せつな――――笑って? ううん、笑おう。一緒に、笑お?」 あ、とせつなは、息を呑む。 ラブの微笑みは、いつもと違う。どこか無理を感じさせるもの。 それはきっと、辛いから。心が痛いから。 誰かのことを、彼女は思っている。思って、心を痛めている。 けれど、それでも彼女は笑う。 せつなという少女を、その苦しみを、全て受け止める為に。 笑う。 「・・・・・・ラブ」 名を、呼んで。 せつなは、笑った。 笑うことが、正しいことだと。 それが、傷付けた全ての人に対する、贖罪になるのだと、そう思いながら。 彼女は、目をうるませたまま、笑った。 「せつな。おかえりなさい。アタシ達の家に」 「――――ただいま。ラブ」
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美希「ブッキーは将来は獣医さんになりたいって言ってたけど、せつなは将来何になりたいの?」 せつな「え?えっと…ラブのお嫁さん、かな…」 祈里「へぇ…そうなんだ…」 美希(しまった、地雷踏んだ)
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「え~~プロ契約を辞退するですって?」 ミユキが驚きの声を上げる。 3人でも契約を結んでもらえる、それを伝えにきた矢先だった。 「ごめんなさい、ミユキさん、せっかくコーチしてくださったのに。 でもあたしたち3人で決めたんです。クローバーは解散します。」 「アタシたちは4人でクローバーなんです。せつなの居ないまま…… 3人だけで踊りたくないんです。」 「わたしも同じ気持ちです。みんなで勝ち取った優勝でした。 だから、あれがわたしたちの最後のステージにしたいと思います。」 それぞれの想いを語る3人。 彼女達もせつなと同じように、自分の夢を追いかけると語った。 『今まで、ほんとうにありがとうございました。』 深々と頭を下げてお礼の言葉を口にした。 ポタリ、ポタリ、彼女達の足元に雫が落ちる。 それがどれほどの決意か。 どれだけ彼女達が懸命に努力したかを知ってるだけに、引き止めることができなかった。 「美希ちゃんはモデル。祈里ちゃんは獣医だったわね。 ラブちゃん、あなたはどうするの?」 ラブがくちゃくちゃになった顔を上げる。 「あたしは……一人でダンサーを目指します。 何年かかっても、いつか、必ず。」 その体を震わせている寂しさと悔しさ。 何もしてあげられない自分の歯がゆさ。 「一人でなんて言わないの、ラブちゃん。私がいるじゃない。 コーチ続けるわよ。」 「ミユキさん…………。 はい…………お願いします。」 堰が切れたかのように、そう言って号泣するラブをミユキはそっと抱きしめた。 おつかれさま、あなたたち。今までほんとうに良く頑張ったわね。 必ず、夢を掴むのよ。あなたたちなら出来るって、私も信じてるわ。
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一緒に勉強しよう、と呼ばれて美希の家に寄ったブッキー 着替え終わったばかりだった美希 「早かったわね、飲み物持ってくるからちょっと待っててね」 急いでいたのか制服はまだベッドの上 いつも隣からほのかに香っていた美希ちゃんのいい匂い 同じ匂いに誘われて、フラフラと制服までたどり着くブッキー イケナイとは思いつつも少しだけなら…、でも見つかったら軽蔑されちゃう… 何とか理性が勝ちそうになったが、 見つけたのは最愛の人の蒼い綺麗な髪の毛 (あ、やっぱりダメだ…美希ちゃん…ゴメン!) ギュ 「んふ...美希ちゃんの匂い...」 「お待たせー、コーヒーと紅茶どっちが...って何してるの?」
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柔らかな寝息と溶け合うような温もり。 それを感じて迎える朝は、いつもこれ以上ないくらいの 幸せを感じさせてくれた。 まあ、滅多になかったけどね。 大抵は先に目覚めて、バッチリ身支度の済んだせつなに起こされるのが 常だったから。 珍しくあたしが先に目覚めた日は、 つい、いつまでもせつなの寝顔を眺めてしまう。 微睡みから覚める、その瞬間の無防備な表情が愛しくて。 無垢な幼子のような透明な瞳が、一夜を共にした相手を認め、 緩やかに艶を帯びてゆく。 恥じらいに彩られ、伏せられた睫毛が揺れるのを見て また誘われてるような気分に駆られる。 熱くなる体の芯。そのまま衝動に身を任せてしまいたいが、 そんな幸運な朝は今までにも数えるばかり。 そして、次はいつになることやら。 最高に可愛くて薄情なあたしの恋人。 いったいいつまでほったらかしにする気なの? え?好きでほったらかしな訳ないって? そんな事わかってますよ。そりゃもう、骨身に染みて、ね。 でもねぇ。心の中で愚痴るくらいは許してよ。 正直ね、たまーにキツいんだわ。ほんっとに。 会えない時間に愛を育てるったってさ、このままじゃ育ち過ぎて 胸に収まりきらなくなりそうだよ。 せつなぁ。会いたいよぉ。ギュッてしたいよぉ。 確かにもう寒いどころか汗ばむ日もあるくらいだけどさ。 一人寝の寒さに季節は関係ないんだよ。 (………ん?寒い?) せつなを思い、夢と現を往き来しながらの目覚め。 久しく忘れそうになっていた心地良い覚醒。 しかし、意識がハッキリしてくるにつれラブは目をパチクリさせる。 (あのー……これは、いったい…) 広いベッドに横を向いて寝ていたらしい。 目の前にあるのは午前の明るい光に揺らめくカーテン。 瞳をぐるりと巡らせると、クローゼットらしい扉、パソコンデスク、 と殺風景なくらいシンプルで素っ気ない…そして問題な事に まったく見覚えのない部屋だと言う事。 (えー…と、これって……) 状況を頭が認識するにつれて鼓動が早くなって来る。 その理由はもう一つ。と、言うかそちらの方がラブの気分的に遥かに 問題だった。 うなじにかかる規則正しい息遣い。 体に回された腕のしなやかな重み。 ぴったりと肩口から膝裏まで寄り添うように密着した、吸い付くような感触。 不思議な事に、知らない部屋で他人に密着されて目覚める…と言う 普通ならパニックになりそうな事態なのに、何故か不快感は微塵もない。 寧ろ…… 背中に感じる膨らみの奥に、静かに脈打つ鼓動。 鼻をくすぐる甘い花のような香り。 前に回された腕のキメ細やかな白い肌。 綺麗に整えられているが、短く切り揃えられた爪が何だか几帳面で 清潔そうだった。 気持ちいい。そう感じる。 心地良い寝覚めは、この匂いと温もりのせい。 あの子と迎えた甘酸っぱい朝の感触。 とても似てるけど、少し違う。 しかしながら状況が異常な事に変わりはない。 こんなに安心仕切っている場合ではないのだから。 兎に角として、背後の人物を確認しなければ……。 何となく、起こさないようにそっと腕を外す。 ゆっくり身を起こし、振り向く。 しかし、その人の姿を目にした瞬間。 ラブの思考は熱したフライパンに落としたバターのごとく、 ジュワっと音を立てて溶けてしまった。 (ふわぁ…………) そこに横たわっていたのは、ラブが今まで実際に目にしたり、 想像した『綺麗な女の人』のエッセンスをすべて集めたかのような女神様だった。 所謂、『男の浪漫』を体現したような少し大きめのパジャマの 上だけの寝姿。 肢体のすべてが円やかな曲線で出来ており、滑らかな肌の光沢は とろりとしたミルク色の液体を薄い透明な膜で閉じ込めているみたいだ。 濡れたような艶を放つ髪と長い睫毛。 熟れた果実を思わせるふっくらと赤い唇は、触れたら蕩けてしまいそうで。 唇同士を軽く擦り合わせたら甘い果汁が滴るのではないか。 そして何より、その顔の造作はラブの誰より会いたい人の面差しを そのまま写し取っていたのだった。 しかし、本人であるわけはない。 ラブは大人の女性の年は今一つよく分からない。 若い。でも自分よりは随分年上なのは確実だ。 3才年上のミユキさんよりもやや上、くらい? と、言う事は二十歳くらいだろうか。 「…………ん…………」 ふにゃふにゃになった頭で、まるで危機感のない観察をしていたら その人は軽く寝返りを打って息を漏らした。 片膝を少し立て、仰向けになって手の甲で額を押さえている。 仰向けになってもパジャマの胸元は腹部よりも随分と高低差がある。 しかし、下着は着けていないようだ。 少し身動ぎするだけでも、その魅惑的な稜線を描く中身は フルッ…と柔かそうに震えている。 (あ……、目ぇ開けた…!) 自分の置かれた不可解な状況も忘れ、小さな動きの一つ一つに 見入っていたラブ。 眩し気にパチパチと閉開する睫毛が、まるで小さな鳥の羽ばたきみたいだと思った。 ゆっくりと、瞳がこちらを向き、ラブと視線が交差する。 さっき、甘そうな果物みたいだと思った唇の端が軽く持ち上がり はにかんだような微笑みを型取り……… 「………ラブ……」 信じられない事に、自分の名前を呼んだ。 が、しかし。 「ーーーっ!!ラブっ?」 女神様はガバッと跳ね上がるように飛び起き、ガシっ!と両手でラブの顔を挟む。 (はわわわわっ…!どアップ……) 見開いた目で至近距離で覗き込まれ、ラブの脳ミソは最早トロトロを 通り越して完全に液体になっていた。 どのくらい、そうしてマジマジと覗き込まれていただろう。 どストライクな見た目のお姉さんの唇からは微かに花のような香りがする。 その香りにクラクラしながらも、さすがに蕩けて流れた 脳ミソも再び固まって来た。 「あの……、ココはドコなんでしょう……?」 それに、貴女は誰? どうしてあたしの名前を知ってるの? なぜ、あたしはここにいるの? それに……… 貴女は、どうしてそんなにあたしの大切な人に似てるんですか…? ようやく金縛りから解けたらしいその人は、クシャリと髪を掻き上げ、 何とも表現し難い苦笑いに似た顔を向けてきた。 「……ラブ…、なのよね…?」 「ハイ……、ももぞの、らぶ、です…。」 自分でも間抜けな反応だと感じながらも、ラブは馬鹿正直に返事をする。 「……取り敢えず、起きましょうか?」 綺麗なお姉さんは、何だか一人納得したような顔。 やたら落ち着いた口調でそう告げてきた。 で、それからどうなったかと言うと…… ラブは借りてきた猫よろしく、畏まってキッチン近くの椅子に座っていた。 キッチンの中ではお姉さんが手際良くブランチ(もう昼近くだったため) の準備をしている。 ラブが用意してもらったのは、ごく普通のピンクTシャツとショートパンツ。 当然の事ながら微妙にサイズが合ってない。 しかし不思議と着心地は悪くなく、何故だか自分の服のように しっくりくる。 ラブは所在無げに視線を彷徨かせながら、先ほど聞いた話を 頭の中で反芻していた。 (だって……、そんなの信じられないよ…。) チラリと彼女に目をやると、バッチリ目が合ってしまった。 ふわりと柔かく微笑まれ、カアッと頬に血が昇る。 思わず慌てて視線を逸らせた。 (私はせつなだ………なんて言われたって……) また盗み見るようにチラチラと窺う。 せつな、と名乗った彼女。 今は長い髪を後ろで緩くまとめ、ラブと同じような普段着に着替えている。 当然ながら、まだ思春期の硬さの残る自分の体つきとは体の線が全然違う。 弾けそうにピンと張った胸元や、砂時計のように括れた腰。 完全に大人の女性の丸みを帯びたヒップライン。 しかし、ショートパンツからスラリと伸びた無駄な肉のない脚は どこか初々しい少女っぽさを残している。 信じられない。そう思いながらも、「大人のせつな」だと言われれば 確かにそれ以上にぴったりくる言葉は無い感じだ。 そして、今まで色々と未来のせつなを想像した事はあった。 が、彼女は確実に今まで思い浮かべたどんな「未来のせつな」より 三割増しくらいには美人さんだった。 ラブはベッドでの感触を思い出し、心臓がダンスのごとく 跳ね回るのを感じた。 (いや…、別に浮気したワケじゃないんだし!) 「………くれる?…ラブ? 」 「ハッ、ハィィ!」 無意識に頬と口元をニヤつかせていたラブは、名前を呼ばれて 飛び上がった。 「あ、いや、だからね。コレ並べてくれる?」 「ふぁ、はい!」 対面式のキッチンの向こうから皿を渡され、カウンターに並べる。 こんがり焼けたハムとチーズのホットサンド、彩りの良いサラダ、 スープにも野菜たっぷりだ。 形良く膨らんだオムレツに、色違いのマグカップに注がれたカフェオレ。 えらくしっかりとした内容に、ただ出来上がるまでボケっとしていた事に 気付き急にいたたまれなくなってきた。 「あっあのっ、ごめんなさい。お手伝いもしなくて。」 「ん?いいわよ。」 その状態じゃ、お皿割られちゃいそうだしね。 そう、顎に拳を当ててクスクス笑う表情はせつなそのものだ。 またラブの体温は一度ほどは確実に上昇した。 避2-53へ
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「ねぇ…ラブちゃん」 甘えた声で話しかける祈里に、ラブは優しく微笑み返した。 「なあに?どうしたの祈里」 「あのね…。…やっぱり恥ずかしいな」 モジモジと身をよじり、顔を赤らめる祈里を愛おしく思いながら、ラブは答えをせかした。 「なによ~気になるなぁ。ねぇ、なになに?」 今日は、久しぶりのふたりっきりのデート。 お互いの顔を見つめながら会話をする。 恋人同士だから当然の事なのに、それがこんなに楽しくなっちゃうなんて。 「あのね……この前、美希ちゃんがせつなちゃんに服を選んでもらったじゃない?あれ、すっごく羨ましいなぁって思って…」 「そっか!じゃあ今日はあたしが祈里に服を選んであげるよ!」 「ホント?嬉しい!」 「そのかわり…」 ラブは、左手をそっと差し出した。 「手…つなぎたいな」 「えっ」 突然のラブの申し出に、祈里はみるみる頬を染める。 ラブはわざと、少し意地悪に続ける。 「手つなぐの、アタシとじゃ…イヤ?」 「そ、そんな訳ないじゃない!だって…、大好きなラブちゃんだもん!」 「じゃあ、どうしてもっと喜んでくれないの?」 「違うの!……ただ、久しぶりだから嬉しくて…、ビックリしちゃっただけなの」 「だったら…」 「…ウン」 お互いの手が伸び、触れ合い、確かめ合う。 指と指をからませ、強く握ったり、ふっと抜いたり。 (ヤダ……、胸がドキドキしてる。恥ずかしくて、ラブちゃんの顔見られないよ…) 真っ赤な顔でうつむく祈里を、ひょいとラブが覗き込む。 「ありがとね、祈里。これで明日からまた頑張れる」 「ラブちゃん…」 「祈里は、アタシの元気の源なんだ。だから、これでパワー充電完了だよっ!」 ラブのとびっきりの笑顔につられて、祈里まで自然と微笑んでしまう。 「ラブちゃんには敵わないなぁ」 昔から祈里は、この〝笑顔〟に弱いのだ。 そして、これからもきっと…。ずっと永遠に…。 了
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祈里(す、すごい・・・) まるで、高熱を出した赤子のような顔をして書物を見詰める一人の少女。 美希(愛し合うとはこれぐらい情熱的じゃないとね) クール、その言葉がまさに的確。整然と書物を見詰める一人の少女。 せつな(どうすればこんなになれるのかしら?私は無理かしら?) 顎に手を置き、難しそうに首を傾げる一人の少女。 ラブ「よっしゃ!新刊ゲットだよっ!早速試しちゃうよぉ~」 三人とは正反対。鼻息荒くそそくさと書物を購入する好奇心旺盛な一人の少女。 思春期。 何事にも興味のあるお年頃。 奥が深いですよ、あの世界は・・・
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ある日のお風呂 ラブ「せつな、あたしも入ってもいい?」 せつな「っっ!!まだいいって言ってないでしょ!」 ラブ「隠さなくてもいいじゃん。せつな結構オッパイおっきいんだね~」 せつな「ちょっ!触らな…あん…や…め…」 ラブ「あれ-何かせつなの先っぽとがってきたよ?固くてコリコリしてる」 せつな「…ふぁ…駄目…」 ラブ「せつな…すんごく可愛い。続きはあたしの部屋でしよっか」 筆力なくてすみません
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昼下がりの、 気持ちいい風。 子供たちが、ボールを手に 遊んでいる。 同時に背伸びをして、 お互いに、くすっと笑う。 「すごいよせつな! とっても気持ちいいよ!」 「嬉しいわ。 ラブにそう言ってもらえると。」 せつなに連れてきてもらった、 復興中のラビリンス。 四つ葉町をモデルにした、 広い丘。 草の香りが、鼻をくすぐる。 「ねぇせつな、あの建物、何?」 穏やかな広場に似つかわしくない 無骨な建物。 その形は、あたし達がここで 闘っていた時に、よく見ていた形。 はずみで聞いたことを、 後悔した。 しばらく返事をしなかったせつなが、 ふっと顔を上げた。 「...行きましょ、ラブ」 胸の鼓動まで聞こえそうな、 静まりかえった空間。 冷え冷えとした空気。 「せつな、ここって...」 「訓練施設、だったの」 せつなが、壁を 見つめながら話す。 「私が四つ葉町に来る前、 ここで訓練されたの」 壁に反射する声。 語られるのは、 せつなの、イースの、過去。 幹部兵士として派兵される前に、 徹底的に訓練されたこと。 脱落者は、次の日から 姿を見なくなったこと。 当たり前のように、 空席が増えていったこと。 この頃、デリートホールの存在を 知ったこと。 デリートホールの目の前で行われた、 直接の戦闘訓練。 自らの手で、何人も 落としたこと。 命が、軽い世界だった。 挙げ句の果てに、せつな自身も 一度、命を失った。 「ごめん、せつな...」 また、思い出させちゃった。 聞くんじゃ、なかった。 最低だ、あたし。 下を向いたあたしの手を、 せつなが握ってくる。 「大丈夫よ、ラブ」 顔を上げる。 目の前の、せつなの顔。 はっとした。 四つ葉町で時々見せていた、 後悔に揺れる瞳じゃない。 強く、優しい 瞳の光。 今までの、悔い。 今までの、悲しみ。 湖水のように、たたえたまま それでも、強く光る決意。 全部飲み込んで、 前を向く。 みんなを、 必ず幸せにする。 「私、ここへ戻って、 あらためて気づいたの」 「笑顔と、幸せにあふれた世界にすることが、 私が出来る、たったひとつのことだって...」 「うん...」 「精一杯頑張るって、決めたの」 あたしなんかよりも、 ずっと大人だ。 ぎゅっと、手を握り返す。 手を繋いだまま、建物を出た。 「あっ!お姉ちゃんだ!」 「遊ぼ!遊ぼ!」 子供たちが、せつなの元に駈け寄る。 「いいわよ、何して遊ぼっか?」 離れたせつなの手は、 たちまち子供たちに取られる。 せつなはもう、ラビリンスに しっかりと、足を着いている。 せつなの居場所は、 ここなんだ。 「お姉ちゃんも!」 あたしの手も、子供たちに取られる。 「よーし、あの丘の上まで競争だよ!」 「わーい!負けないよー!」 みんなで、いっせいに走る。 先を走る、せつなの後ろ姿。 遠くなる。 ふいに、 視界がかすんだ。 少し乱暴に、目をこする。 よかったね、せつな。 嬉し涙だと、 言い聞かせた。
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「もう11月ね……」 せつなはベランダに出てため息をつく。吐息が白く染まる。 秋から冬に移り変わる季節。今年は特に寒いのだとか。 毎日が穏やかで充実した日々。不満なんてあるはずもないけれど……。 夜空を見上げる。冬が近づくとともに雲が増え、滅多に星が見えなくなった。今日も同じ。 細く欠けた三日月だけが、雲の合間から顔を覗かせていた。 ラブの部屋の方を見る。既に電気が消えていた。風邪気味だとかで早く寝たのだ。 またため息を付く。秋は人恋しい季節なんだって祈里が言っていたのを思い出した。 うんうん、って頷いてたラブと素直に聞いていた自分。そしてもう一人、「アタシは平気よ」ってすました 顔をしていた親友を思い出す。 無性に会いたくなった。今――――すぐに。 自分のワガママに呆れそうになる。人はどこまでも貪欲で満たされることを知らない。明日も会えるの にと思う。 「キィ――」 突然リンクルンからアカルンが飛び出した。嬉しそうにせつなの周りをクルクルと回る。 「もう、突然びっくりするじゃない。そう、あなたも会いたいのね?」 「キィ――」 「じゃ、こっそり押しかけて驚かせちゃいましょ」 せつなとアカルンは赤い球体に包まれて、光の速さで飛び立った。 せつなは軽やかに着地する。ここは美希の部屋。目を閉じてたってわかる、素敵な香りが教えてくれる。 美希はベランダにいた。艶やかな美しい髪が部屋の光を反射してキラキラと輝く。 パジャマにスリッパ。寝る前の一番気を抜いた時ですら、まして後姿ですら、美希の美しさは人の目を 惹きつけて離さない。 ちょっと悔しくなってイタズラしてみたくなる。 あの格好では寒いはず。掛けてあったカーディガンを手にそっと忍び寄った。 「これでしょ?」 「ひぃぃぃ」 「うるさい」 「あ、あんたねぇ……」 美希は始めはびっくりして、その後ぽかーんとして、そして嬉しそうな顔になって。最後には照れ隠し に怒りだした。 「大体、人の家に急に現れるとか犯罪行為なの。わかる?」 「キ…キィ…」 「アカルンをイジメないで!かわいそうでしょ」 「アタシはせつなに言ってるのよ!」 「それなら平気よ。美希以外には絶対にしないから」 「アタシが平気じゃないって言ってるのよ!」 「本当は嬉しいクセに」 「なっ!そ、そんな事……」 「美希が月を見つめるなんて、寂しい時くらいでしょ」 「はいはい、もうわかったわよ。その通りその通り」 美希が笑顔を取り戻してせつなに座るように促してきた。笑顔といっても苦笑の類だけど、友達に会え て嬉しくないはずもない。 お茶を入れる美希の様子を穏やかな目でせつなが見つめた。 常に自分に高いハードルを架している美希は、滅多に弱みを人に見せることが無い。突然押しかけた ことは申し訳ないと思うけれど……。 こうして慌てたり、驚いたり、恥ずかしがったり、怒ったり。素のままの美希と触れ合える時間は貴重 だった。 (本当は嬉しいクセに) 誰にいった言葉やら。可笑しくなって忍び笑いした。美希が目ざとく見つけて問いただしてくる。 なんでもないって手を振ってごまかした。 自分こそ、寂しくなってアカルンの好意に甘えたクセにと思う。 同じ時間にベランダで夜空を見ていた。正直になれないところも、強がりなところも、本当によく似て いると思う。 お互いに寂しい過去を持つもの同士。心は三日月のように欠けて満ちることがない。 そんな寂しさを埋めあうように、今夜は一緒に眠ることにした。 「ところで……なんでアタシが下で寝るのよ」 「私、ベッドじゃないと寝れないから」 「床はこの時期冷たいんだけど?」 「じゃあ、ベッドに入れてあげてもいいわ」 「素直に一緒に寝ようって言えばいいのに」 「フンだ。そっちこそ」 満たされない二人の満ち足りた夜。お月様とアカルンだけが静かに見守っていた。